内科・小児科・アレルギー科・リハビリテーション科
吉川内科小児科 生薬方剤による漢方診療(保険適用)

吉川内科小児科は、愛知県名古屋市中村区、名古屋市立豊臣小学校の西にある内科小児科医院です。
高血圧や、肥満などメタボリックシンドローム、リセット禁煙、漢方診療(保険適用)を中心に
内科・小児科・アレルギー科・リハビリテーション科の診療をしています。お気軽にご相談ください。

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吉川内科小児科 生薬方剤による漢方診療(保険適用)

吉川内科小児科は、愛知県名古屋市中村区、名古屋市立豊臣小学校の西にある内科小児科医院です。高血圧や、肥満などメタボリックシンドローム、リセット禁煙、漢方診療(保険適用)を中心に内科・小児科・アレルギー科・リハビリテーション科の診療をしています。お気軽にご相談ください。

徒然日記

海で

―――詩集「象」          川崎 洋

 

今年の夏 ついこのあいだ

宮崎の海で 以下のことに出逢(あ)いました

浜辺で

若者が二人空びんに海の水を詰めているのです

何をしているのかと問うたらば

二人が云うに

ぼくら生まれて始めて海を見た

海は昼も夜も揺れているのは驚くべきことだ

だからこの海の水を

びんに入れて持ち帰り

盥(たらい)にあけて

水が終日揺れるさまを眺めようと思う

と云うのです

やがて いい土産ができた と

二人は口笛をふきながら

暮れかける浜から立ち去りました

夕食の折

ぼくは変に感激してその話を

宿の人に話したら

あなたもかつがれたのかね

あの二人は

近所の漁師の息子だよ

と云われたのです

 

まんまと一杯くわせた漁師(りょうし)の息子2人が住んでいたところは「宮崎県児湯(こゆ)郡川南(かわみなみ)町、とろんとろん」というところだそうです。正式な地名が「とろんとろん」とは。

この話は同じ作者による『母の国、父の国のことば――わたしの方言ノート』という本にもくわしく出ています。彼は今、全国を歩きまわって、豊かな方言を拾い集めることに熱中し、つぎつぎたのしい本を出しています。言語学者の研究とはまた角度の異なるつかみかたで、本来、詩人は母国語に対し、こういう仕事をしなくちゃならないはずですが、ようやく、魚を生けどりするような、どきどきする喜びでつかまえる人が出てきたわけです。

宿のおばさんに「その2人は近所の漁師の息子ばい」と笑われて「だまされても、ちっとも腹がたたず、その逆に変に嬉しいというか、とてもおいしい小咄(こばなし)を堪(たん)能(のう)したような気分でした」と書いています。私もなんとしゃれた騙(だま)しかただろうと感嘆してしまいます。誰も傷つかない最高のユーモアで、若者2人の行為そのものが、すでに詩。だから、さらさらと紹介するだけで詩になってしまいました。九州の博多(はかた)には「仁(に)輪(わ)加(か)」という、素人による、即興喜劇の伝統が残っていますし、九州では、民話の主人公も、みんなどこか剽軽(ひょうきん)なおかしさを湛(たた)えています。そうした土地柄のせいでしょうか。

人気(ひとけ)のない浜で、ぼんやり、ひたすら海をみていた作者の前で、一升(いっしょう)瓶(びん)にゴボゴボと、さも大切そうに海水を入れる人をみれば「何をしているんですか?」と声もかけたくなろうというもの。良い受け手がいなければ、この話も成立しませんし、「ユーモア」をつかさどる神様が「川崎洋、とろんとろんへ行け」と、ひそかに操作したのかもしれません。

コロリとだまされて「これほど交通が発達しても、山国育ちで、あの年になってはじめて海を見たという若者もいるんだなァ」と感に堪(た)えて帰ってゆく人もいるでしょう。この2人は今でも同じいたずらをやっているか、それとも今頃は、弟どもにひきつがれているか。

(詩のこころを読む    茨木のり子)