内科・小児科・アレルギー科・リハビリテーション科
吉川内科小児科 生薬方剤による漢方診療(保険適用)

吉川内科小児科は、愛知県名古屋市中村区、名古屋市立豊臣小学校の西にある内科小児科医院です。
高血圧や、肥満などメタボリックシンドローム、リセット禁煙、漢方診療(保険適用)を中心に
内科・小児科・アレルギー科・リハビリテーション科の診療をしています。お気軽にご相談ください。

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吉川内科小児科は、愛知県名古屋市中村区、名古屋市立豊臣小学校の西にある内科小児科医院です。高血圧や、肥満などメタボリックシンドローム、リセット禁煙、漢方診療(保険適用)を中心に内科・小児科・アレルギー科・リハビリテーション科の診療をしています。お気軽にご相談ください。

徒然日記

ナポレオン

君たちはどう生きるか  𠮷野源三郎  ワイド版 岩波文庫 2006年4月14日 第1刷発行

(底本『君たちはどう生きるか』新潮社、1937年8月10日刊)

 

君はナポレオンについて、こういう話のあるのを知っているかしら――

ウォーターローで敗れたナポレオンは、もうヨーロッパには身を置くところがなかった。彼はロシュフォールの港からアメリカに渡ろうと企てたが、その時すでに、この港はイギリスに占領されていて、彼はついに捕われの身となってしまった。イギリスの海軍は、とりあえず彼を、イギリス本国へつれていった。ナポレオンの乗っているベルロフォーンという汽船がテームズ河口に碇泊(ていはく)していた間、波止場は毎日見物の人でたいへんな混雑だった。なにしろヨーロッパの天地に風雲を巻きおこし、20年間も無敵の英雄として恐れられていたナポレオンが、とうとう捕虜になってつれて来られたというのだから、イギリス人が驚喜したのも無理はない。殊に、イギリス人にとっては、ナポレオンは最初から最後まで戦いつづけて来た相手で、彼のために苦い失敗をなめさせられたことも、2回や3回のことではなかった。それがついに捕えられ、しかも自分たちの国につれて来られたのだ。せめてナポレオンの乗っている船だけでも見ようと、大勢の見物人は、毎日波止場に群がって来た。

イギリスに着いて以来、ナポレオンはずっと船室にとじこもったまま暮らしていたので、波止場に集まった人々は彼の姿を見たいと思っても見ることが出来なかった。ところが、ある日、ナポレオンは久しぶりで外の空気に触れたくなり、とうとうその姿を甲板にあらわした。

思いがけず、有名なナポレオン帽をかぶった彼の姿を、ベルロフォーン号の甲板の上に認めたとき、数万の見物人は思わず息を呑(の)んだ。今まで騒ぎ立っていた波止場が一時にシーンとしてしまった。そして、その次の瞬間――、コペル君、どんなことが起こったと思う。数万のイギリス人は、誰(だれ)がいい出すともなく帽子を取って、無言

で彼に深い敬意を表して立っていたのだ。

戦いにやぶれ、ヨーロッパのどこにも身の置きどころがなく、いま長年の宿敵の手に捕えられて、その本国につれて来られていながら、ナポレオンは、みじめな意気沮(そ)喪(そう)した姿をさらしはしなかったのだ。とらわれの身となっても王者の誇りを失わず、自分の招いた運命を、男らしく引き受けてしっかりと立っていたのだ。そして、その気魄(きはく)が、数万の人々の心を打って、自然と頭を下げさせたのだ。何という強い人格だろう。

――君も大人になってゆくと、よい心がけをもっていながら、弱いばかりにその心がけを生かし切れないでいる、小さな善人がどんなに多いかということを、おいおいに知って来るだろう。世間には、悪い人ではないが、弱いばかりに、自分にも他人にも余計な不幸を招いている人が決して少なくない。人類の進歩と結びつかない英雄的精神も空しいが、英雄的な気魄(きはく)を欠いた善良さも、同じように空しいことが多いのだ。

君も、いまに、きっと思いあたることがあるだろう。